天測航法12─位置の線航法(2)

位置の線航法(2)

前項で説明したように、
天体(ここでは太陽)が真上に見える場所の緯度経度と船がある位置の緯度経度(推定値)がわかれば、船が円周上に存在する円が描ける。

計算した天体の高度と実際に測定した高度の差で、円をもっと大きくすべきか小さくすべきかがわかる。

天体位置決定用図に作図して位置を出す。

という手順で作業が進められる。

では、具体的にみていこう。

1. 天体の高度を測定し、時間を記録する
観測高度に必要な改正を行って真高度 at を求める。
(改正については、子午線高度緯度法の項を参照)

2. 現在の船の推定位置を出す
前回の船の位置から進行方向と経過した時間を考慮して現在の船の位置(緯度と経度)を推定する。推定位置は多少ずれていても問題ない。

3. 天体が真上にある場所Xの緯度(赤緯d)と経度(赤経R.A.)を求める
赤緯は天測暦から赤経はグリニッジ標準時(GMT、または世界時UT)との差から時角(h)として求める。
(子午線高度緯度法の項と経度の項を参照)。

4. 推定位置(2項)と天体の位置(3項)の緯度経度から、AXの方位(計算方位角Z)と計算高度Acを求める

ac:計算高度、ℓ: 推定緯度、d: 赤緯、h:時角とすると

(1) 高度acの計算式

sin ac = sinℓ・sin d + cos ℓ・cos d・cos h

(2) 方位角の計算式

cos Z = (sin d – sin ℓ・sin ac) / (cos ℓ・cos ac)

こういう数式が出てくると面倒に見えるが、天測専用の電卓や関数電卓があればすぐに結果はでる。エクセルなどのスプレッドシートに計算式を入れておいて数値を入力すれば自動的に計算されるようにしておいてもよい。

とはいえ、天測計算表にはすでにそうした計算を行った結果が記載されているので、それを使えば、単純な手計算でも出せる。

いわゆる米村表で「高度方位角計算表」として計算されている。こんな感じ……使い方も欄外に記載されている。

出典:書誌第601号『天測計算表』 海上保安庁

天測計算表を使った計算高度と方位の求め方

(1) 計算高度

地方時角 h に対してA1、赤緯 d に対してA2、推定緯度 ℓ に対してA3の値を計算表から探し出し、A4を求める。

A1+A2+A3=A4

A4 の値から計算表の A4 で該当する欄から A5 を求める。
ℓ と d が同符号のときは ℓ - d異符号のときは ℓ + d をA6とする。下の計算式でA7を求める。

A5 + A6 = A7

計算表で A7 に該当する値が計算高度 ac になる。

(2) 計算方位角

A1 を求めるとき、その列の右に Z1  の値が記載されている。
A2 の値はそのまま Z2 の値になる。
A7 の値を求めるとき、右横に Z3 の値が記載されている。

Z1 + Z2 - Z3 = Z4

表でZ4に該当する値が方位角Zになる。

5. 作図

(1) 天体位置決定用図で、コンパスローズの中心を船の推定位置として、計算方位角の線を引く。
図の線②

(2) 計算高度 at と真高度 ao の差(修正差 I )を求め(単純な引き算)、修正差 I 分だけ、船の推定位置を方位角の線に沿って外側(真高度が計算高度より小さい場合)または内側(真高度が大きい場合)に移動させ、方位角に垂直な線を引く。
これが位置の線になる(細い赤線①)。船はこの位置の線上のどこかにいる。

修正差Iの距離は、緯度によっても異なるので、位置決定用図の右側に印刷されている漸長緯度差の尺度からディバイダで測る(オレンジ)。

6. 数時間後に同じ手順で観測を行って、さらに位置の線を引く。
この二本の線の交点が船の位置(船位)になる。

注意: 最初の位置の線を時間の経過分だけずらす必要がある(転位)。これは速度と進行方向で距離をだして、その分だけ平行移動させるか、最初の推定位置をその分だけずらして作図し直してもよい。

 

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天測航法11─位置の線航法 (1)

位置の線については、平面で考えるとわかりやすい。
海上にいて、ある小さな島の山の頂上が磁針方位で60度の方向に見えたとする。
海図のコンパスローズで60度に定規をあてて、その島まで平行移動させ、山頂を通る線(方位線)を引けば、自分の現在地は、その線上のどこかにあるはずだ。

次に別の目標物を調べて、同じようにそれを通る線を引く。二本の方位線の交わる点が自分の位置を示している。これが前回取り上げた、地文航法のクロスベアリング法である。
ichinosen_6-1

この目標物を天体に移したのが天測航法/天文航法の位置の線航法と呼ばれるものである。

ある日ある時間に地球上のある地点から天体(太陽、月、惑星、星)を見上げたとき、その角度が70度だったとする。
地球上でその時間にその天体が高さ70度に見える場所は無数に存在するが、そうした点を結んでいくと、大きな円になる。
ichinosen_6-2

つまり、この円周(赤線)上のどこかにいることになる。

天体を目標物にした場合、この円周が位置の線になるのだが、実際の作図ではずっと狭い範囲を取り扱うので、円周も直線として扱う。

次に別の天体を調べて、その高さに見える場所を点で結べば同じように円が描ける。この二つの円の交点が自分の位置を示している。
ichinosen_6-3

直線と違って、交点は2つできるが、この2つの場所は、たとえば太平洋とユーラシア大陸とか、インド洋と大西洋とか、極端に離れているので、自分のいる場所がどっちかはすぐにわかる。

同時に二つの天体の高度を知るのがむずかしいときは、同じ天体を時間をおいて二度測定しても同じ結果が得られる

星がよく見える夜は水平線が見えにくいし、水平線がよくわかるときは、まだ空に明るさが残っているので星が見えにくく、星は星座として全体でとらえるとわかりやすいが、六分儀のレンズの中では本当にその星かわかりにくかったりと、現実には星の高度を測るのはなかなか厄介なので、一般には太陽を使うことが多い。

太陽の場合、可能であれば、朝、昼、夕方の三回観測する。それぞれ、モーニングサイトヌーンサイトイブニングサイトと呼ぶ。

まず日の出から少し時間が経った頃(たとえば午前八時)に太陽高度を測定し、必要な改正を行って真高度を求める。改正については子午線高度緯度法で述べた方法と同じだ。

その上で、天測計算表から方位角を見つければ、位置の線が一本引ける(具体的な手順は後述)。

さらに、正午か夕方にも測定して同じように位置の線を引く。

最初の線については、時間の差がある分だけ(船の速度×方向で距離を計算して)位置をずらす必要はあるものの、この二本の線の交点が観測者のいる場所になる。

正午の場合は子午線高度緯度法で説明したように、位置の線を使わなくても、それだけで位置を確定できるためバックアップとしても有効だし、両者を比較することで精度の向上にもつながる。

では、もう少し具体的にみていこう。
天体はほぼ規則正しく運行しているので、ある年の○月○日の○時○分に地球上のどの地点の真上にあるかは、あらかじめわかっている(天文暦に記載されている)。

天体をSとする。
観測する自分の位置を推定する(前日の位置から進行方向と速度で推定すれば、だいたいの検討がつく)。この推定位置をAとする。この位置は正確でなくても問題はない。
ichinosen_6-4

観測地点と天体がその時間に真上に来ている場所をXとすると、観測者から見て天体のある方位(A-X)と角度(∠SAX)が計算できる。

自分の推定位置Aと天体が真上にある位置Xを直線で結ぶ(これが円の半径になる)。

そのとき観測した高度と計算で出した高度を比べて、
同じであれば、推定した位置Aが実際の位置になる。

観測値の方が大きければ、推定位置より内側Bになる。
観測値の方が小さければ、推定位置より外側B’になる。

その角度の差を距離に換算して推定位置から内側または外側に移動した点(BまたはB’)を通り、半径A-Xに垂直な線を引く。これが位置の線になる。

大きな円のごく一部になるので、円周は半径に対して垂直な直線とみなすことができる。

これをもう一回、別の天体か、同じ天体であれば時間をずらして行い、最初の線は船が移動した距離だけ平行させる。

この二本の位置の線の交わった点が観測者がいる実際の位置になる。

この作業は海図ではなく、「天測位置決定用図」と呼ばれるものを使って行う。

この上の写真は『天文航法』(長谷川健二著)に付属しているものだが、海図販売所で専用の冊子が販売されている。

(この項は次回に続きます)

 

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天測航法 9─太陽や月、星が観測できないときの推測航法

太陽などの天体は天候が悪ければ測定のしようがない。それに毎日正午に天測するにしても、その間の位置も可能であれば知っておく必要がある。
そのときに用いられるのが推測航法(Dead Reckoning navigation、略称は DR)である。
航海術としては最も単純かつ確実で、直感的にわかりやすい。

十五世紀にインドへの新しい航路を探るつもりで新大陸(の周辺の島々)を思いがけず発見してしまったクリストファー・コロンブスの航海術も、基本は推測航法だった。
古代からあるアストロラーベや当時最新の四分儀を用いて北極星の高度を観測したりはしたようだが、航海日誌を見ると、かなりの誤差が生じたりして、あまり信頼できなかったようだ。その時代、六分儀はまだ登場していない。

コロンブスは詳細な航海日誌を残した最初の大航海家だが、その航海の大半はこの方法によったらしい。

推測航法とは、「方位磁石(コンパス)で船が進んでいる方角を調べ、その方向に船が進んだ速度と時間から航海距離を算出し、それを海図上に作図」して、船の現在位置を知る方法である。
コロンブスの時代は砂時計とトラバースボードを用いて約30分おきに記録していたが、普通はそれを1時間ごとに繰り返す。

海図には必ず真方位と磁針方位を同心円で示したコンパスローズというものが印刷されている。

コンパスローズの方位に合わせ、前回に確認した船の位置と重なるまで平行移動させて、進行方向に線を引く。

直線の平行移動には日本では三角定規二枚を組み合わせて使うのが一般的だ。欧米のヨットでは、平行定規という小さな車輪がついたものを使うことが多い。どちらでもかまわないが、コンパスローズでは磁針方位を使うのか真方位を使うのかは明確に(意識して)区別しておくこと。

そして、所定の時間に進んだ距離(速度×時間)分の長さを二本足のディバイダ(作図用コンパスでもよい)で海図の左右の縁に印刷してある緯度の目盛りから取って、引いた線の上に印をつける。
それが現在位置になる。

距離は 1’(1分)=1海里(1852 m)
速度は 1ノット=時速1海里

経度はそのときの場所によって幅が変化するので、海図で距離を測るときは、必ず緯度の目盛りからとること。

進行方向、速度、時間について、注意点を順に説明する。

進行方向―偏差と自差
進行方向は方位磁石でわかるが、地球の回転軸(地軸、真北)と磁石の指す北(磁北)にはズレがある。このズレを偏差(Variation)と呼ぶ。

偏差は海図に記載されている(地域ごとに異なる)。
磁北は絶えず移動しているため、海図を作成したときから年数を経ていれば、その分の修正も必要になる。作成年と、1年でどれくらいズレていくかも海図には記載されているので、その分も加算して修正する必要がある。

また、方位磁石(コンパス)には、それぞれの船特有の自差(deviation)というものが存在する。これは磁石が船の金属などの影響を受けることによるズレだ。

船舶用の方位磁石にはこれを修正する方法が用意されていることが多い(補正用のネジや薄い金属片の挿入など)。それでも解消しきれないズレは、航海前にあらかじめ、船がどの方向を向いたときに何度くらいズレが生じるのかを確認して一覧表やグラフにしておき、方位磁石の示す値にその分を加減することになる。

コンパスの自差測定の手順

1.トランシット法
陸の見える場所では、海図に記入されていて同時に同じ方向に見える二つの目標物を探す。たとえば、港の灯台とその背後にある山の頂上などだ。

その二つを結んだ線の延長上(トランシットという)に船を移動させ、その線上から外れないようにして(たとえば、灯台と山頂が上下に重なる位置を維持しながら)船の向きを東西南北とその中間の八方位に順次向けていき、その都度、トランシットがどの方角になるかを記録する。
海図で測ったトランシットの方角と、八方位における測定値との差が自差になる。自差がなければ、すべて海図と同じ角度になるはずだ。

具体的には、トランシットが海図上では60度の方角になるはずなのに、南東の位置で測ったときに63度だったとすると、「船が南東を向いているときは、方位磁石は+3度ズレている」ことになる。これは船の方向によって少しずつ変わることが多い。

2.遠方物標法
陸の見えない外洋で自差を測定するには、太陽のような非常に遠い天体を選び、船を旋回させて順に上述の八方位に船首を向け、その都度、天体の方位を測定する。
8方位での測定値を合計し、また8で割って平均値を出す。
その平均値と各8方位での測定値の差が自差になる。

速度―対水速度と対地速度
ヨットなどで使用する速度計には、船尾から垂らし水の抵抗でくるくる回る回転数を調べる曳航式ログや、船体に取り付けた小さな水車のようなものなど各種ある。なれてくれば大体何ノットくらいで走っているかの検討はつくようになるが、計器を使った方が誤差は少ない。

重要なのは、速度には海面を何ノットで進んでいるのかという対水速度と、実際に地表面に対してどれくらいの速度で進んでいるのかという対地速度があり、それを明確に区別するということだ。

一般的な速度計は対水速度を示すもので、仮に速度が5ノットの表示だったとして、海流や潮流が同じ方向に2ノットで流れていれば、実際には(動かない地面からすれば)5+2=7ノットで走っていることになる。
潮の流れが正反対だとすると(逆潮)、5ノットの表示が出ていても、実際には5-2=3ノットでしか動いていないことになる。
海図に作図するときは対地速度で計算したものを使う。つまり、対水速度については、そのときの潮流や海流がどっちの方向にどれくらいの速さで流れているかも考慮しなければならない。

ちなみにGPSで示される速度は対地速度だ。

これを使えば簡単だが、だったら六分儀で天測するまでもないという最初の話に逆戻りしてしまう。
いずれにしても、この方法がだめなら、あの方法、それが無理ならこっち……と、いざというときの選択肢は多いほど安全係数は高くなるので、知っていて損はない。

六分儀を使った訓練を一度は中止した米国の沿岸警備隊が、最近になって六分儀の教育を再開したが、これもそうしたことの裏付けになるだろうか。

 

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天測航法 8─六分儀の使い方

ここでは、六分儀の使い方について理解しよう。

六分儀は、船の航海で天体の位置(角度や高度)を観測して現在位置を知るために必須の道具で、帆船やヨットの外洋航海では、こんな光景がよく見られる。
sextant-jacklondon
観測しているのは『野生の呼び声』などの作品で知られる作家、ジャック・ロンドン (『スナーク号の航海』より)

ひとくちに六分儀といっても、時代やメーカーによってさまざまなので、一般に共通する部分の名称を示し、その仕組みについて説明する。

4-1 各部の名称

写真は、日本で六分儀の代名詞になっているTAMAYA製のMS-733。
わりと新しい、ごく標準的なもの。軽合金製で重さは二キロ弱。
これを重いと思うか軽いと思うかは、使う人の体力と体調によるだろう。
長期の航海で疲れているときは、これを構えるだけでも結構な重さに感じることもある。

(1) 望遠鏡 telescope
(2) 動鏡 index mirror
(3) シェードグラス index shades
(4) 水平鏡 horizon mirror
(5) シェードグラス horizon shades
(6) 弧(アーク) arc
(7) 儀面 body
(8) マイクロメータ micrometer
(9) バーニャ vernnie(10) 指標棹 index arm
(11) レバー release levers(12) ハンドル handle

それぞれ役割
(1) 望遠鏡は、もちろん、ここに目を当ててのぞく。
(2) 動鏡(インデックスミラー)は天体をここに反射させて水平鏡に像を送る。
(3) シェードは濃淡が数段階あり、太陽を見るときは濃い色を使用する。
(4) 水平鏡は望遠鏡から素通しで水平線が見えるが、同時に動鏡からの映像を反射させて望遠鏡に送る働きもする。
(5)シェードは(3)と同じ。天候など周囲の状況によって適したものを選ぶ。
(6) 弧(アーク)はスケールともいい、1度ごとに目盛りが刻んである(-5~+125)。
(7) 扇形の儀面は鏡や望遠鏡を取り付ける本体部分。
(8) マイクロメータはアークの角度の微調整を行う。
(9) バーニャでは1度以下の角度を読む(0.2’)。
(10) 指標棹(インデックスアーム)を動かして角度を調整する。動鏡と一体。
(11) 指標棹の下にあるレバー二本を同時につまむと指標棹が動く。離すと固定される。
(12)ハンドルは写真に見えている側の裏側にあり、右手で持つ。

4-2.天体と水平線を見る仕組み

tamaya-sextant
上図でわかるように、天体の映像は動鏡で反射して、水平鏡に送られ、そこからさらに反射されて望遠鏡に送られる。
と、同時に、望遠鏡の視界には水平線もそのまま見えている。
天体の映像と水平線の実像が一直線に並ぶように、指標棹(インデックスアームの角度を調節する。
レバーで大体合わせ、マイクロメータを回して微調整する。

4-3. 実際の観測手順
A.六分儀を調整する。
(1) 動鏡(インデックスミラー)と水平鏡(ホライゾンミラー)は儀面(本体)と直角になっていなければならない。

確認し調整する方法はメーカー/製品によって異なるので、それぞれの説明書を見て確認する必要があるが、たとえば、動鏡が直角かどうかは「鏡に映る弧と直接に目で見える弧が直線になっていれば直角、屈折していれば直角ではない」といったことでわかる。近くに調整ネジ(または類似の仕組み)があるはずなので、それで調節する。

水平鏡の直角は普通に縦にして持ったときの「水平線と映像が一直線になっている」状態で、そのまま六分儀を倒していって水平にしてもなお「一直線」であれば直角、そうでなければ直角ではないので、ネジ等で調整する。

(2)器差(インデックスエラー)の改正

指標棹(インデックスアーム)を弧の00’に合わせたときに、動鏡と水平鏡は平行になっていなければならない。

指標棹(インデックスアーム)を00’に合わせて、水平線を見る。
sextant-image01
こうなっていればOK。
sextant-image02
こうなっていれば調整ネジで一直線になるようにする。

さらに正確さを確認するには、そのままの状態で六分儀を傾けて、なおかつ一直線になっているかチェックする。必要に応じて調節する。
ただし、どう調節しても段差が消えない場合は、マイクロメータで指標棹を動かして一直線にし、その時の角度をメモしておき、後で計算により加減する。

B.調整終了後、実際に天体の角度を測る。
太陽を見る場合はかならず濃いシェードを使うことを忘れないように。

ヒント: 体がふらふらしない場所や体勢を確保し、天体のおよその高さを推測して、あらかじめ六分儀をその角度にしておくと、割と楽に天体と水平線の両方を捕らえることができる。
望遠鏡に水平線と太陽の両方が入ったら、マイクロメータで微調整して位置を合わせる。
sunandhorizon
普通はこのように太陽の下辺を合わせる。

C.目盛りを読む。弧(アーク)は度単位なので、それ以下はマイクロメータとバーニャで読む(0.2’単位)。目盛りの中間は比例させて読む。

4-4 人工の水平線を使う

実際に海に出ると、太陽などの天体は見えるのに水平線がはっきりしないことはよくある。代表的な例は海霧だが、それに限らない。

で、そういうときに便利なのが人工水平線 (アーティフィシャルホライゾン)だ。
専用の器具がある。
多少の差はあるが、大体はこんな形をしている。
artificialhorizon-01

ま、洗面器のような容器に水を入れて、水面を通して太陽を見ても測定可能だが、風などで水面が揺れると映った像も揺れるので、専用の方が使いやすい。

仕組みはこうだ。
artificialhorizon
六分儀と人工水平線に差しこむ太陽からの光線は平行とみなすことができる。
水面の入射角と反射角は等しいので、●はすべて同じ角度になる。
つまり、六分儀で測定した角度を2で割ると天体の高度になる。

これは水平線の見えない陸上で六分儀による天体の高度観測の練習にも使える。
この場合、高度改正で、眼高による改正は不要になる。

 

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天測航法 3─なぜ太陽が真南にきた時間を知ると自分のいる位置(経度)がわかるのか

 

経度については、海外旅行をするときの日本と現地時間の差(時差)と考え方は同じで、経度が15度で1時間の差になる(360÷24=15)。緯度よりずっとわかりやすい。

とはいえ、赤道付近で経度が1度違うと距離は60海里(1852m×60=111120m)、15度では900海里(1667km)にもなるので、もう少し下の単位が必要になるが、前回述べたように時間と同じで、分や秒を用いる。

1時間=60分         1分=60秒

1度 =60分         1分=60秒

どちらも分と秒でまぎらわしいので、

時間の場合は、時間(h)、分(m)、秒(s)を使う(hour、minute、second)。
2時間5分30秒 => 2h、5m、30s

緯度・経度の場合、度()、分( ′)、秒(″)を使う。
135度15分25秒 => 13515’25″

経度1度の距離は、赤道付近が最大で、北または南に行くほどその距離は狭くなり、北極や南極では1点に収束する(理論上はほんのひとまたぎで、経度0度から経線をすべて横切って地球一周できる)。

緯度の1度はどこであっても距離は変わらない。

経度を知るには、その場所で太陽が真南にきたときの時間を計測し、

それが経度0度のグリニッジ標準時(GMT)より何時間何分進んでいるか(遅れているか)を調べ、

その時間差を度に換算すれば、いまいる場所の経度が算出できる。
現在では、GMTではなく、セシウム原子時計で調整した協定世界時(UTC)が使われる。両者では100年間で18秒ずれるとされるが、六分儀を使った観察では「同じ」とみなしてよい。

実際の観察では、太陽がいつ真南にきたのかを判断するのかが意外にむずかしい。また太陽はきちんと1日24時間で1回転しているわけでもないので、その分の補正も必要になる(「均時差(きんじさ)」という)のだが、その点については、実践編で具体的な手順を説明する。

ここでは、時間と度の換算について、きちんと理解しておこう。

時間と度の関係は、地球が24時間で1回転することを前提としている。
つまり 24h=360 だから
時間と度の換算表

船にはグリニッジ標準時を示す時計(いわゆるクロノメーター。いまどきの時計は昔の貴重で高価なクロノメーターと同等以上の精度がある)が必須になるが、グリニッジ標準時の正午との時間差を求めて、度に換算する。

グリニッジ標準時より早ければ東経、遅ければ西経になる。

具体的な例で考えよう。
太陽が真南にきた時間(南中時刻)をはかったら、グリニッジ標準時の正午(12時)より10時間18分41秒早かったとする。
10h×15=150
18m×15=270’=430’
41s×15=615”=10’15” なので、

経度(E)    =(150+4)(30+10)’15”
=15440’15”

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ここからは、おまけ

電卓かパソコンの表計算ソフトが使えれば、こんな筆算はしなくてすむ。

まず、10h18m41sを時間で表す。

10+18/60+41/60=10.31138889(時間)

これに15をかければ、整数部が度になる。
10.31138889x15=154.6708333

小数点以下に60をかければ、整数部が分になり、その小数点以下に60をかければ秒がでる。Excelのような表計算ソフトだとTEXTなどの関数を使えば、数値を入力するだけで

A°B′ C″の形式で表示させることもできるが、そういう今風の道具を使ってよいのなら、「最初からGPSを使えよ」って話になるわけで、天測にロマンを感じたいのであれば、計算も電卓なんか使わず、鉛筆片手に筆算できる範囲にとどめておいたほうがよい。

 

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天測航法 2ー天測って何?

まず、これだけは押さえておこう(基本の原理)

天側航法/天文航法とは、天空を動いている天体(太陽や月、恒星、惑星)の位置を測定することで地球上での自分の位置を知り、それに基づいて航海することをいう。

地球が完全な球で、自転の軸(地軸)が地球と太陽を結んだ線に対して垂直で、きっちり24時間で一回自転し、太陽のまわりを正確に365日かけて円軌道を描いて公転しているのであれば話は簡単だ。

まず、これを前提にして、太陽の高さと真南に来た時の時間でなぜ自分の位置がわかるのかについて説明する(今回は緯度、次回が経度)。

その後で、実践編として、緯度の計算で必要な補正(天測では改正と表現する)の理由と具体的な手順について説明する。

なぜ数値の補正(改正)が必要なのかというと、地球は、実際には球体(ボール)ではなく、しもぶくれの洋ナシのような、いびつな形をしていて、表面のふくらみにも差があるからだ。

それに、地軸は太陽に対して斜めに傾いているので、季節によって太陽の高さは違ってくるし、1日の長さも24時間ちょうどではなく、公転している軌道も真円ではなく楕円形をしている。さらに天体の見え方も気温や海水温によって密度が異なるので光の屈折率が違ってきて……と、理由は山ほどあるが、誤差の範囲という点から考えれば、補正すべきポイントは限られてくる。

世界一わかりやすい、といいながら、めんどうくさい理屈になりかけたが、実際には決まりきったルーチンの作業を機械的にやっていくだけなので、そうむずかしく考えることもない。

とはいえ、基本の考え方がわかっていれば、仮に間違っても自分で気づいて後で修正ができるので、これから述べることくらいは理解しておこう。

なお、原理とか理論といっても、直角は90度、平行線の同位角は等しいということを知っていれば、そうむずかしくはない。

天測術の本を開くと高校で習うサイン、コサインといった三角関数を使った、むずかしそうな計算式がずらっと並んでいたりするが、ここで紹介する計算では、そういうものは、まったく必要ない。

なぜ太陽の高さを観測すると自分の位置(緯度)がわかるのか

丸いボールの形をした地球は、北極から南極を貫通した線(地軸)を軸にしてコマのように回転している。
これを地軸に垂直な平面で輪切りにすると、この輪切りにした円の一番大きいところが赤道になる。この輪切りにした円の円周を緯線という(図はダブルクリックすると拡大します)。

図1-1
f1-1_latitude

緯度については、赤道を基準の0度とすると、北に90度まで(北緯)、南には90度まで(南緯)。北緯はN、南緯はSで示す。

また、北極点から南極点までを結ぶ地表で最短距離の線(経線)は無数に引ける。任意の場所を通るものを子午線という。
図1-2
f1-2_longitude

いろんな歴史的経緯があって、現在、イギリスの首都ロンドンのケンブリッジ天文台跡を通る経線を経度0度とし、東に180度まで(東経)と西に180度まで(西経)進むと地球の裏側で出会い、そこが日付変更線になる。東経はE、西経はWで示す。

地球上の場所はすべて、将棋盤や碁盤の目のように、この経線と緯線の組み合わせで表すことができる(北緯30度、東経150度のように)。

とはいえ、地球は大きいし、緯度も経度も「度」という単位だけではおおざっぱすぎる。もっと小さい単位が必要になるので、時間と同じく60進法が採用され、度の下の単位が分、分の下の単位が秒になる。

1時間=60分        1分=60秒

時間の場合は、時間(h)、分(m)、秒(s)で表す。
2時間5分30秒 => 2h、5m、30s

緯度・経度の場合、度()、分( ′)、秒(″)で表す。
135度15分25秒 => 13515’25″

図1-3は、昼と夜の長さが同じになる春分の日と秋分の日の正午における、北極点と赤道での緯度と太陽の高度の関係を示している。
注: 太陽までの距離は地球の大きさに比べて、とても遠いので、地球のどこから見ても、太陽の方向は同じ(平行線)とみなしてよい。
図1-3
f1-3_basic

図でわかるように、太陽の水平線からの高度は、赤道では90度(真上)、北極では0度になる(水平線と重なる)。

図1-4は、同じ日の、北半球の任意の地点●における緯度 ℓ と太陽高度 a の関係を示している。
図1-4
f1-4_basic2

緯度 ℓ は「平行線の同位角は等しい」ので ℓ1と同じになるため、緯度 ℓ と太陽高度 a を合わせたものが90度になることがわかる。

つまり、 ℓ(緯度)+a(太陽高度)=90(度)、これから ℓ = 90 -a が導かれる。
この関係は、図1-3の赤道と北極点に当てはめても成り立つ(赤道の緯度は0度、北極点は90度)。
前にも述べたように、地軸は太陽に対して傾いているため、春分の日と秋分の日をのぞけば、太陽は北に動いたり南に動いたりする。太陽が赤道からどれくらい南北に動いているかを示すのが赤緯(せきい)で、d で表す(赤緯は天測暦に掲載されている。赤緯の調べ方は実践編で具体的に説明する)。ここでは、まず基本的な原理を理解しておこう。

図1-5は、太陽が赤道から北に移ったとき(北半球の夏)を示している。
図1-5
f1-5_latitude-d

図1-4との違いは、 ℓ+a が90ではなく、赤緯 dの分だけ重複していることだ。
つまり、ℓ+a-d=90、これを整理すると ℓ=(90-a)+d になる。
春分や秋分の日の計算に赤緯の分だけ足せばよいわけだ。

図1-6は、逆に、観測者はそのまま北半球にいる状態で、太陽が赤道から南に移ったとき(北半球の冬)を示している。

図1-6
f1-6_latitude-s
図でわかるのは、z+a=90 ① ℓ+d=z ②
①と②から ℓ=(90-a)-d となる。

図1-7は、1-5と1-6の中間、つまり、観測者は北半球にいるが太陽の赤偉よりは南(赤道に近い方)にいる場合である。観測者は太陽を北側に見て高度を測ることになる。

f1-7_latitude-ns
このとき赤偉と緯度の差をzとすると、図からd=ℓ+z ①、a+z=90 ②
②をz=90-aと変形して①に代入し、整理すると

ℓ=-(90-a)+dになる。

北半球にいると想定した例を示したが、南半球の場合も同じである(図は上下逆さになるだけ)。

要するに、緯度(ℓ)は(90-a)とdの組み合わせ(ℓ=±(90-a)±d)という形になるのだが、プラスとかマイナスの符号がつくため、海の上で船酔いした頭で考えていると、どっちがどっちだかわからなくなってしまったりするので、次のように単純化して整理しておこう(次に示す青文字のところだけ覚えておけばよい)。

正午に太陽の高度(正中時の視高度という)を測定して緯度を求めるには


1.    太陽を南に向かって測定した場合、(90-a)の値にNという符号をつける
2.    太陽を北に向かって測定した場合、(90-a)の値にSという符号をつける
3.    天測暦で赤偉(d)を調べる
(赤偉には必ず赤道より北か南かを示すNかSの符号がついている)

●    (90-a)とdの符号が同じならば(NとN、SとS)、両方を足してその符号をつける。
●    (90-a)とdの符号が異なる場合(NとS、SとN)、
値の大きいほうから小さい方を引いて、大きい方の符号をつける


これだけ

仮に南に向いて観測した太陽の高度aが65度で、赤緯dがN10度30分だとすると、
(90-a)もdも同じNになるので、

緯度 ℓ     =北緯(N)(90-65)度+10度30分
=北緯(N)25度+10度30分
=北緯(N)35度30分 (N3530’)

 

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天測航法 1─はじめに

はじめに

カーナビはいうまでもなく、道に迷ったらスマホに内蔵されているGPSを使ったナビ・アプリで道案内してもらえばいい時代には、六分儀を使った天文航法による位置測定は、旧世紀の遺物、ほこりまみれの骨董の世界のように思える。とはいえ、大航海時代の探検家や帆船に乗った海賊、ヨットの冒険家が六分儀で太陽を観測して自分の位置を調べたりするのは、ちょっとかっこよかったりする。

実際問題として、二十一世紀の現在、大海原で自分が乗っている船の現在位置を正確に知るには、人工衛星を使って位置を表示するGPS受信機と紙の海図か電子海図があれば十分だし、そうしたものを丸ごと一台に組み込んだGPSプロッターも普及しているので、それがあれば世界一周でも用は足りる──

筆者も実際のヨット遊びでは、GPS内蔵のスマホやタブレットで電子海図に現在位置を重ねて表示させて、カーナビ・アプリのように使っているので、利便性について異論はない。

こういう電子機器は電源がなくなれば無用の長物になってしまうため、「バックアップとして旧来の道具や手法も必要」という人もいる。それはその通りだ。

とはいえ、紙の海図とコンパス(方位磁石)は現在でも必需品だとは思うが、率直に言って、六分儀まではいらない気もする。

今どきのヨットで、こういう小さな電子機器の消費電力も確保できないという状態は、転覆でもしない限り考えにくいので、バックアップが必要ならば、予備の携帯用GPS受信機と電池をタッパーウェアなど水の入らない容器に密封して積んでおけば足りるだろう。

しかし、利便性とか効率だけで測れないのが人間というやつで、そもそもヨットなんてもの自体が効率とはかけはなれたものだし、エアコンやラジオもないビンテージのクラシックカーに大金をつぎこんでいる人や、オートマ全盛で、コンピューター制御の自動運転車が現実に道路を走る時代にも、マニュアルのクラッチ操作にこだわる人がいるのも事実だし、そうした人々をマニアと呼んで、ひとくくりにして片付けたとしても、どこかそっちの方が楽しげだったりするのはなぜだろう──そういう功利的な発想をしている限り見えてこない「もの」があるのではないか?

損か得か、効率がいいか悪いか、利口か馬鹿かの二者択一ができないところに人生の妙味がある──ばかのやることを馬鹿だと思ってバカにしていると、自分自身が物事の本質が見えない馬鹿になる──のかもしれない。

すでに人類は何十年も前にロケットで月に行っているというのに、人はなぜちっぽけな山に登ろうとするのか? なぜ海を見ていると、水平線の向こうに行ってみたくなるのか。散歩の途中で路地を見つけたら、なぜ迷いこんでみたくなるのか――こういう無駄が人生をおもしろくする……のかもしれない。

というわけで、これから六分儀を使った天文航法についての話をしよう。

「天測には海のロマンを感じる」でも、「単なる道楽」でも、「うんちく自慢したい」でも、動機は何でもよいが、ルールや戦術や選手の特徴を知っていた方がサッカーがより楽しめるように、天測の基本を知っていれば、少なくとも帆船やヨットの航海記や冒険物語を読む楽しさは倍増するはずだ。

これだけ知っていれば、とりあえず現代の外洋ヨットでGPSを持たずに天測しながら日本から太平洋を渡ってアメリカに到着することは可能だという程度の、具体的かつ実践的な内容になる、はず……

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