オープン・ボート 16

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スティーヴン・クレイン著

海では、押し寄せてきた大波の頂点がいきなり轟音をあげて崩れ落ち、長く続く白い砕け波がボートに襲いかかった。

「ようそろ。そのままいけ」と船長がいった。岸の方を眺めていた男たちは無言のまま視線を押し寄せてくる波の方に移し、そうして待った。ボートは波の前面でなめらかに持ち上がり、怒り狂った波の頂点で跳躍し、波の背後の長く続く斜面に着水した。海水が入ってきたが、料理長がくみ出した。

だが、また次の波がやってくる。沸騰したような白濁した波頭がボートに激突し、ボートはでんぐり返し状態で翻弄された。四方八方から海水がどっと流れこんできた。記者はそのとき舷側を両手でつかんでいたが、そこから海水が入ってくると、濡れたくなくて反射的に指を離した。

小さなボートは水の重みで沈みかけ、旋回しながら海中に引きづりこまれそうになった。

「海水(ビルジ)をくみ出すんだ、料理長くん! 急げ」と船長がいった。

「はい、船長」と、料理長がいった。

「いいか、お前ら、勝負は次の波だぞ」と、機関士がいった。「ボートからできるだけ遠くへ跳ぶんだ」

その三つ目の波がやってきた。巨大で、荒々しく 情け容赦ないやつだ。ボートが波に飲みこまれた。と同時に、彼らは海へ跳びこんだ。船底に救命帯の切れ端が残っていたので、記者はそれを左手でひっつかんで胸に当てて跳びこんだ。

一月の海は氷のように冷たかった。フロリダ沖だからそこまで冷たくはあるまいと高をくくっていたが、予想したより冷たかった。ぼうっとした頭で、なぜかこのことは記憶しておくべき重要な事実に思えた。海水の冷たさは悲しいほどだった。悲劇的だ。この事実と自分の置かれた状況とを考えあわせて彼は当惑したが、泣いてもおかしくない理由があるようにも感じられた。このときの海水はそれほど冷たかった。

海面まで浮上すると、潮騒の他はほとんど気にならなかった。それから、海上に浮かんだまま、他の連中を探した。機関士は先頭をきって泳いでいた。力強く、泳ぎも達者だった。少し離れたところに、救命帯のコルクを巻きつけた料理長の白い大きな背中が浮いていた。後方では、船長が負傷していない方の手で転覆したボートの竜骨につかまっていた。

岸の方へはなかなか進めなかった。波に翻弄されながら、記者はそのことについて考えた。

理由を探りたい誘惑にもかられたが、どうやら岸までたどりつくまで長い勝負になりそうだとわかったので、あせらないよう肩の力を抜いて泳いだ。跳びこむときにつかんだ救命帯の切れ端を体の下側に巻きつけ、ときどき手押しのそりにでも乗ったように波の斜面を滑り落ちていった。

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